「防護服の生産」という厚労省の入札案件に応募した愛知県内の縫製会社と
地元の障害者雇用施設のスタッフをマッチングした結果、
当初計画の約4倍の、約4万枚を生産することができた。

このプロジェクトの目的:
①コロナ禍の医療逼迫改善に貢献するプロジェクトが愛知県内で行われていたことを県民の方に知っていただきたい
②プロジェクトの成功を周知することで尾州地域のPRにつながる
③障害者施設ではたらいている方への理解がひろがるきっかけになってほしい
④地元に、コロナ禍の売り上げ低減にめげすがんばっている中小企業がいることを多くの方に伝えたい

防護服プロジェクトは1本の電話から始まった。

「昨年12月の厚生労働の防護服入札案件を、もっと効率化したいのだけど

FASHION LABO小林の小林代表からの連絡だった。

 

クライアントの日常の困り事から商機を生み出す

河野は他社の取り組みの視察を習慣にしているという。

「製造業でも物流事業でも、現場のオペレーションを他の分野の人から客観的に見てもらうことが大事。
フィードバックし合うことで、お互いに生産性を上げられる」

「相手が知らないことがあったら、代わりに作業を請け負うこともできる」

 

電話を受けた河野は現場に駆けつけ、作業工程を確認。

防護服を納品する工程は以下の通りだった。

①裁縫
②検品
③畳む

最初は、同じ作業者が一連の作業を順番に担当していた。

防護服を裁縫したら、検品して畳むためにいったん製造ラインを止めてしまう。
常に製造を続けることができず、生産数が伸び悩む。
製造ラインを回し続けるための体制づくりが課題だと分かった。

しかし、検品と畳みは正確さを要する作業のため、外注は難しいのではと考えられていた。

 

小林代表と意見交換する中で、河野はこのように提案した。

「愛知の自動車工場では、障害をもつスタッフの方が活躍している。」
「彼らは特性を活かして、アクセルペダルの部品組み立てなど、命に関わるような超精密な作業を請け負うこともある。」
「彼らに検品と畳み作業を外注できないだろうか?」

障害者スタッフは、メイドインジャパン製品の質の底上げに間違いなく貢献している人材だ、という信用があった。

 

小林代表の賛同が得られ、防護服の検品・畳み作業の一部始終を動画で撮影。
翌日には、就労継続支援施設を運営する知人や、Googleマップからピックアップした愛知・岐阜の障害者雇用施設に営業回りに出発した。

トラックで愛知と岐阜を奔走し、担当者に動画を見せながら「こんな作業をお願いできませんか?」と、数十箇所に営業。

有限会社八針もパートナーに加わり、結果的には、20事業所以上とパートナー関係を結ぶことになった。

 

障害者スタッフに作業を外注して作業開始するまでで【1週間以内】というスピード感だ。

<スケジュール(当時のカレンダーをもとに確認)>
129日 小林代表と電話
22日 現場視察
23日 障害者施設に営業・ミーティング
24日 最初の障害者スタッフと検品・畳み作業開始
215日~ 増員のため再度の営業回り

納期は1ヶ月後にせまっていたので、このくらいのスピード感がないとダメだった、と河野は振り返る。

 

売上4倍を現実に。取引先と事業計画の練り直しも行う

当初の予定では、防護服の生産予定枚数は1万枚ほどだったが、
検品・畳みを外注すると、予定枚数はすぐに達成できる見通しになった。

河野はクライアントに実現したい生産枚数を聞き、事業計画を練り直した。
そこからタスクを逆算し、最終的には約4倍の、4万枚を生産することができた。

 

なぜこのような、大幅な売上アップが実現できたのか?

それは、具体的な生産計画につきる、と河野は言う。

 

製造したい枚数をまず決める。
製造にかかる日数を逆算する。
予定枚数と納期がマッチするように、1時間に何枚縫えて、検品でき、畳めるのか。
誰が何時間稼働するべきなのか。

それらをひとつひとつ、行動ベースに落とし込んでいくのがポイントだ。

 

例えば、障害者スタッフが1施設あたり約5人派遣可能なのであれば、約6分で1枚の防護服が畳める。
であればm1時間で10枚畳める。

さらに、1日に1,000枚畳みたい場合には、100時間分の人員を確保しなければならない、と計算できる。

 

最初にこの計算をするために、スタッフに防護服を畳んでもらい、タイムを測った。

人員が足りないと判断すれば、すぐ障害者施設への新規営業を行った。

結果的に、11,300枚ペースを目指し、各地にある事業所に作業を依頼することになった。

 

株式会社socomの拠点である稲沢市だけでは間に合わず、
愛知県一宮市、津島市、名古屋市、また県を跨いで岐阜の事業所にも依頼した。

生産管理と同時に、必要な資材の発注と発送も、河野が担当。
現場では紙伝票の納品書を受け渡しているので、伝票に記載された内容をスプレッドシートに打ち込んで一元管理を行なった。

生地、納品物、ケースマーク、ダンボール枚数などの多種多様な資材の出入数と時期をすべて記録することでミスを防いだ。

 

ひととおりの生産管理をしたうえでの反省点は「製造ロスをなくすこと」。

検品の結果、B品になってしまう商品をなくすことが、次回への改善点だとみている。

 

コロナ禍における厚生労働省「防護服生産案件」の意義

コロナ禍でさまざまな業界が事業縮小するなか、国内の生産業が打撃を受けている。
海外で安価に生産するのではなく、国が予算を投じて雇用促進を図ったプロジェクトであるともいえる。

また、防護服は医療用レベルの「メイドインジャパン品質」が求められる製品でもあった。

国家予算が投じられており、製造業社にとっては高単価な仕事になる。
日本国内で生産を、との規定にもかかわらず安価な中国の工場で生産し、
検品のみ日本国内で行うことで「メイドインジャパン」をうたって、問題化してしまった業者もいたようだ。

参考:https://news.yahoo.co.jp/articles/9e2c9d664b0ba1d0bdc534a8134df38d67eac028

 

障害者雇用施設における「就労継続支援B型」は、作業が完了した量に応じて「工賃」として報酬を受け取る。

作業単価が安かったり、利用者の作業量が少なくなったりする場合には、そのぶん工賃が低くなる。

したがって全国的にB型の平均工賃が低くなる傾向にあるようだ。

 

単価が低くなることは一見デメリットにも見えるが、発注する側の事業者が依頼しやすく、

利用者にとっては障がいが多少重くても働きやすい、という側面もある。

 

一方、「就労継続支援A型」は、事業所と利用者が雇用契約を結ぶ形態となり、都道府県の最低時給が保証される。

出来高で支払いが発生するB型と違い、時給以上の仕事ができなければ経営は厳しくなる。

しかし報酬単価の良い仕事は多くないので、一般的な企業以上に経営努力が必要となるのが現状だ。

そんな中、就労継続支援A型で事業所が黒字化を達成した、この防護服プロジェクトは、
国の予算をうまく事業者、利用者に分配できた例だったといえるだろう。

 

河野のチームも「もうかったね」と喜んで終わることも、
中抜きして手元に残るお金を増やすこともできただろう。

しかし、河野と、製造元であるFASHION LABO小林代表、有限会社八針の代表加藤は、
裁縫作業にあたるスタッフおよび障害者スタッフの報酬単価を十分に確保する方針を共有し、
いわば「三方よし」の考えに賛同してタッグを組めるパートナーだったからこそ、プロジェクトが実現できた。

(この代表の2人は手元に残ったお金を、会社のさらなるスタッフ雇用と、新しい設備投資に回したという)

 

タッグを組んだ障害者雇用施設スタッフの声

ほまれの家の各事業所 ※1 へのマネージを行った伊藤綾野さん(7月1日にほまれの家てんとうむしをオープン予定)へインタビューさせていただいた。

コロナ対応を行う医療現場のニュースが報道されるたびに、
「この中の一枚は、うちのグループの事業所で畳んだものなんだ」と誇らしく感じたという。

A型作業の利用者は、先天的な知的障害や身体障害はなく、精神障害をもつなどの理由で一般職で働けなくなった方がほとんどだ。
利用者にとってはより直接的な社会貢献性を実感できる機会だった。

 

伊藤さんはこう振り返る。

「納期まで残された時間も少ない中、動画で撮影した作業内容を的確なマニュアルに落とし込み、緻密なチェックをしていただいた各事業所の担当者に助けられた。」
「納品数の調整は大変だったが、やりがいのある仕事だった。今回の作業で体制が整ったので、次回の案件があればぜひ担当したい」

 

「防護服の検品と納品は、大変な作業だった。」
「縫製して出来上がった防護服を畳み、納品用の袋に入れる。カシャカシャとした生地も特殊で、医療レベルのクオリティを求められる。」
手先の器用な利用者が多いからこそやり遂げられたと思う。

多機能事業所である「アトリエゼロ」管理者の有村健一さんはこう語ってくれた。

「医療が逼迫するなか、社会的意義の大きい仕事だったと思う。
直接的にコロナに関わる商品だったので、利用者の方も社会貢献の実感を得やすかったのでは

どんな仕事であれ分け隔てなくやっているけれど、やはり特別な案件だった、と付け加えた。

 

日本が誇るアパレル生産地・尾州地域を誇りたい

BISHU」といえば、日本が誇る高品質な生地の生産地だ。世界的な高級アパレルブランドからも指名発注を受けている。

木曽三川(きそ・さんせん)に代表される豊富な水資源によって綿織物産業が盛んになり、
蒸し暑さなどの気候的な条件も組み合わさって、だんだんと毛織物産業の全国的な産地に発展していった。

尾張地区には、何代も続くテキスタイルの会社が軒を連ねる。

 

しかし今は、安価で生産できる海外の工場にシェアを奪われ、事業規模が縮小している会社も少なくない。

廃業する会社も増えている。

防護服プロジェクトへの取り組みを通してBISHUブランドの魅力をもっと知ってもらうことも、この地域で仕事をする私たちの願いだ。

 

FASHION LABO小林

有限会社八針

アトリエゼロ

※1 協力いただいたほまれの家 加盟店一覧

下記ご協力いただいた加盟店です。

ほまれの家 清須店(A型事業所)

ほまれの家 NEXT(B型事業所)

ほまれの家 津島店(A型事業所)

ほまれの家 尾張旭店(A型事業所)

ほまれの家 LIVING(A型事業所)

ほまれの家 南店(A型事業所)

ほまれの家 一宮店(A型事業所)

参考 https://for-plan.co.jp/office/toukai/